2014年7月21日

ニール・ヤングの最新作『ア・レター・ホーム』:ジャック・ホワイトとの共同作業によるカヴァー・アルバム!

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ニール・ヤングという「人間」が鳴っている──

ニール・ヤングの新作は、ジャック・ホワイトのスタジオにあった「ヴォイソグラフ」(Voice-O-Graph、小さなレコーディング・ブースから直接レコード盤のカッティングを行なう年代物のスタジオ。ジャケに写っているのがそれ)で録音したというカヴァー曲集である。
レコード会社のHPには「俺が愛して、俺の人生を変えた数々の楽曲をカヴァーした、とてもユニークなアルバムだ」という発言が載っている。そうだろう、録音方法もユニークだし。だが、さまざまな意味において、この言葉から想像するようないわゆる「カヴァー・アルバム」とは違う、とまずは言っておきたい。

僕は最初、上記の発言を「俺の人生を変えた楽曲ばかり」の──つまり「選曲もひと味違う」「意味が重いぜ」──と読み、「ユニーク」というのも、彼自身の「入れ込み」や「満足感」を表しているのだと思っていた。しかし、聴いてみてわかった。そうじゃない。この「俺の人生を変えた楽曲ばかり」は多分「選曲の説明をするとするなら、簡単に言えば──」程度、「ユニーク」はそのまま「あまり類を見ない録音方法の」という意味、だったということだ。
しかし、しかし、このアルバムはここ数年来の彼の作品の中では明らかに突出した作品になっているのだ。しかも、それは「たまたまそうなってしまった傑作」だったと僕は思う。

なってしまった傑作?──不思議だが本当なこの話、を順を追って書いていく。
前提となるのは、今回の作品は、特別にニールが、選曲演奏ともにとことんこだわり、満を持して世に出したものではなかろう、と思われる点である。
発売に至る経緯の正確なところは知らない。以下はもちろん想像になる。しかし、前作の後、「次はカヴァー・アルバムで!」という強い意図がなかったのはわかる。ヴォイソグラフと出会い、このユニークなブースで録音してみたい、録音したものを作品化したい、と思ってしまったのがきっかけ──いわゆる過去にもあった「気まぐれニール」的な動機──ではなかろうか。あのブースを目の前にしたら使ってみたい、と僕でなくても思うだろうし、第一、彼が本当に、いわゆる今までと同じ姿勢で「カヴァー」にこだわった「カヴァー・アルバム」をやりたいと考えたなら、もっと違う形にしただろうということである。というより、わずか2年前に『アメリカーナ』という、元のアレンジやメロディさえ変えてしまうぶっ飛びカヴァー・アルバムを出しているのだ。それで、また今回カヴァーを? ありえない。

ここで演奏したい、録音もしてみたい、きっと面白いだろう──という、個人的な感情(?)の方に重点があり、逆に言えば何を演奏してもよかったのだ。しかし、わざわざ「ここ」で俺は新曲やオリジナルをやるのか? と。だったら、「他人の曲をやるべー」となり、ならば、自分のやりたい曲というだけでなく、それなりの「対外的に説得力を持つ選曲基準」が必要になる。そこで曰く「俺が愛して、俺の人生を変えた」曲でまとめたのだと思う。
それでもまだ、これをそのまま出すことに引っかかりがあったのだろうか。アナログでいうA面B面の冒頭部分に母親に電話で語りかけているようなニールによる台詞(?)を入れ、さらに多分そこから「A LETTER HOME」というトータル・イメージにつながり(タイトルが見えてきて)、やっとニールの納得できる作品という形になった。そんなところではなかろうか。
昔、二度目の来日(1989年)を果たす直前に日本とオーストラリアだけで(当時、アメリカ発売はなく日本とオーストラリアのみ各々CD、アナログで)出された『エルドラド』という変則的なミニ・アルバムがあったが、感覚的にはそれと同じ「ミニ」で「変則」で、だから今までの「通常の新作」との差をつけるため(か、あるいはこのプロジェクトの仕上げをきっちりやりたかったか)、さらなるダメ押しとして、毎年一回4月の第三土曜日に開かれる「レコード・ストア・デイ」に合わせて先行アナログ盤(のみ)発売、という変則的な(かつ付加価値のついた)発売方法をとった、というのはうがちすぎか。

では、彼の「通常の新作」とは何だったのか? ということである。
簡単に言うなら、常に「制作のきっかけ(動機・背景)がわかりやすい、あるいはその位置づけが説明しやすい」作品ということだ。
つい最近、彼を初めて聴く知人用にCD-Rを(昔のカセット作りみたいでちょっと恥ずかしい話だが、かつてのような「下心」はない)作った。あらためて彼の作品を並べてみたとき、やはり70年代の彼が(声も、曲作りも)突出して素晴らしく、輝いているということをあらためて痛感させられた(もちろん好みもある。あくまでも個人の感想です)。長年、ずっとニール様、ニール様と追い慕い続けたけれども、しかし、やはり年を経るごとにだんだんある種の創作的・創造的を含むいろいろな意味での──それも、あくまでも彼なりの高いレベルでの話だが──正直言って「衰え」を感じずにはいられなかった(ライヴは別)。
しかし、それを一番感じているのはきっと本人なわけで、アーティストの中でもかなり早くに自覚し、処し方について意識的であった一人が彼だったのは間違いない。だからこそ、「同期」たちが失速していく中で未だに特異な「現役感」を放っているのだ。
例えば、ポール・マッカートニーは、エルヴィス・コステロとの共作やレディオヘッドのプロデューサーとして有名なナイジェル・ゴッドリッチを起用することなどを通して往年の力を何度も復活させようとした。悲しいかな(悔しいけど)ポールほどの「音楽的」天才ではないニールの場合はどうしたか。
2000年以降で見てみると、『アー・ユー・パッショネイト?』(2002年)という、9.11に乗っ取られた飛行機の乗客のエピソードを歌った曲を収録したアルバム(ジャケも何となく「そっちの匂い」がする)を事件の早7カ月後には発表、2003年が映画と舞台と音楽と本など多種のメディアに枝分かれしていく『グリーンデイル』、2005年には「30数年後の『ハーヴェスト』」とも呼べる『プレイリー・ウインド』、かと思えば、翌2006年にはブッシュ大統領の起こしたイラク戦争に刺激されて「大統領を弾劾せよ」という反ブッシュ・反戦メッセージソングを含む『リヴィング・ウィズ・ウォー』とその裏(ラフ・)ヴァージョン『Living With War : In The Beginning』を出し、この姿勢は彼のHP上で継続され、CSN&Yとしてのライヴもこういう色になり(2008年『デジャ・ヴ・ライヴ』として発表)、2009年には自身のアメ車を改造して取り組んだエコロジー・プロジェクトに絡めた『フォーク・イン・ザ・ロード』を発表……よく見て欲しい。企画に満ちた、説明に事欠かない作品群が続いている。逆に説明しづらい「○年ぶり(だけ)の」「ただ出したっぽい」ものなど皆無で、各々にわかりやすい「キャッチフレーズ」がついてはいないだろうか。
すなわち、さまざまなアーカイヴ作品を挟みつつ(そういう発掘作業が始まったのも2000年から、というのも興味深いのだが)出された作品は、ある見方をすれば、わかりやすい外部的要因(テロ、戦争、エコ)に牽引されたものが多く、そうでなくても、「企画として万全」「位置づけが明確」で「コピーがつけやすい」ということだ。
だからといって企画負けしたりしているわけではなく、かつての「オハイオ」がそうだが、ニールの場合、何かに押されるかのようにインスピレーション一発&一気にさっと作り上げたものの方がかなりよかったりするのも事実で、個人的な好み(本当に好みだが)で恐縮だが、『フォーク・イン・ザ・ロード』以外は充実した「通常の新作」であったと思う。
で、その後も、2010年に、一言でいえば「ギター弾き語りをあのダニエル・ラノワがいじった」『ル・ノイズ』(ラノワの綴り=LANOISをもじってますよね?)、2012年には「久々にクレイジー・ホースと組んだ」と思ったら、件のカヴァー集(『アメリカーナ』)とオリジナル新作(『サイケデリック・ピル』)を一年で二作、まるで9年のブランクを一気に埋めるかのような「再会記念」の連続リリース。ね、説明しやすくないですか?
すなわち、2000年以降のニールを見てわかるのは、強烈に「企画の人」でもあったということだ。彼の類い稀な発想を、音そのもの以外の要素もからめつつ作品という形にしていく。それこそ、本来の(ポールほどではないにしろ)音楽的才能の「衰え」(?)を補い、ロッカーとして存在するための彼なりのアプローチだったのではないか──もちろん、こう簡単に書いてるほど現実はそう簡単ではなかったはずで、むしろ、それをやれるのが彼の人間的な凄さなのだが。

──で、ここでようやく再度今回の新作『ア・レター・ホーム』に戻る(これ、CDなのにプチッ、プチッという、再生ではなく「録音」時のトレース音が入る。ニールの声もこもって聞こえる。当たり前である。普通のスタジオでもなく、通常の録音でもないのだから。それ故、アナログだとよけいに混乱しそうである……)。
本作ではブルース・スプリングスティーン「マイ・ホームタウン」、ボブ・ディラン「北国の少女」、ウィリー・ネルソン(彼は二曲!)「クレイジー」「オン・ザ・ロード・アゲイン」、バート・ヤンシュ「死の針」の他、ニール言うところの「俺の人生を変えた楽曲」を演奏している。当然「場所・環境」という理由もあって、ギター、ピアノの弾き語りにハーモニカ、口笛などを交えつつ基本的にシンプルで特別なアレンジを施してはいない。
……すなわち、地味。で、音質悪し。にもかかわらず、ものすごく耳に心にしっくりきて、クセになる。
なんなんだ、これは? である。
このさらり感。この、曲とニール(と聞き手さえも)一体化したような「余分な、過剰なもののない」感じ。しかし抵抗なく吹き抜けていくのに何かが残る、意識されない深い波紋。
そりゃあえて言うなら『カムズ・ア・タイム』時を思い出させる曲もある(実は多い)し、「孤独の旅路」に通底するフレーズもあり、オリジナルとの比較や彼の受けた影響など無理してあげつらうことも、その気になればできるだろう。実際、YouTubeでオリジナルに当たるのもいい。しかし、誰がオリジナルで、だからどうした──そんなことどーでもいい。多分、二の次なのだ、この作品においては。そんなことどうでもよくなるくらい、歌に演奏に引き込まれる(引き込まれる、じゃないな。距離感はそのままで耳が離せない、と言うべきか)。もともとニールが選ぶだけある錚々たる曲ばかりなのだから、フツーに歌っても悪いはずがないのだが、文字通り「フツーに歌っていてすごくいい!」(この感覚、伝わるだろうか?)のである。
冒頭の台詞の後、ちょっとした間があって一曲めが始まる。さっとギターを抱えて立ち上がり、ふらっとブースに入る──そういう情景が浮かぶような、いや実際そうだったのだろうと思えるが、その「さっと」感で行なわれるここでの演奏の素晴らしさ──を表現する言葉を僕は今持ちあわせていない。ごめん。だが、これが「音楽の持つ様々な要素が奇跡的に一体化した瞬間」だと言われれば、僕はそれを信じられる。ああ、そうだ、つまり、「普通あまり目にしないこと」がこの作品では起こっているのである。

何度も書いてしつこいが、地味、音質よくない、「さっと」始めた弾き語り……これだけで、なんでこんなに離れられないのか。耳を奪われるのか。なんでこれほどぐっとくるのか。昔、「蓄膿症気味」と言われた(実際そうだったのだが)、しかし艶のあるあのハイトーンな独特の声が好きだった。とはいえ、個性的だが、「味」というものをあまり考えたことはなかった。誤解を恐れずに言うなら、声一発でいけちゃってるくらいに思い込んでいた。先にも書いたが、でも、その声は時と共に少しずつ変わってきた。しかしそれでも、それだからこそ考えてしまう。今回の、胸に届くこの曰く言いがたいものは何なのか。
ここまでくると、音楽でも音でもなく、人間なのではなかろうか。つまり、1945年11月12日カナダ生まれの人間ニール・ヤング、1963年にザ・スクワイアーズの一員としてシングル・デビューし、その後もずっと「現役感」を維持しつつ常に時代とこんがらかって格闘してきたミュージシャンとしてのニール・ヤング……が「鳴っている」と。すなわち、僕らはニール・ヤングという「人間」を聞いているのだ。
今回、「企画力」を発揮したのはこれまでの2000年以降の作品と同じだが、「企画」外のことがいくつか起きたのだ、きっと。ちょっと不思議なブースという条件下でただ歌う……それが、逆に「よけいな武器を持てない」ある種の素手の戦いに近い状況になった瞬間、上記の68歳の「ニール・ヤング」という存在が音を鳴らし始めたのだと思う。そこに、他人には真似できない、彼の人生からしか出てこない──あえて言うなら「味」が漏れ出て、今までに経験したことのない音楽を生んだのだ、と。

年月を経てロックというジャンルがここまでのものになり、「歴史」として検証され、殿堂なんてものもでき、未だに続いているなんて70年代にいったい誰が想像しただろう。ここまでにどれだけのミュージシャンが出て、あるいは消えていったか。「錆びるなら燃え尽きた方がいい」と歌ったのはこのニール・ヤング本人だ。
しかし、それはそれ。年老いても激しくロックする──その重みと意義はよくわかる。かっこいいし。だが一方で、今作のような、古いとか新しいとか長いキャリアとかという価値を超越した「自身を鳴らす」という形。言い換えれば「人」勝負のみのハダカの歌。いみじくもジャケの、顔も出さずうつむいてギターを弾いている彼のたたずまい──まさにそのものである。
どこまで自覚的であったかどうかは知らない。だが、結果として今作でニールが提示することになったのは、これ、だと思う。

かつての座標軸には収まりきらない、そしてものすごい可能性を秘めた──すなわち見たことない境地に立ったこの不思議な孤高の傑作の登場に、僕は快哉を叫びたい。

[米田郷之]

Neil Young – Needle Of Death

Official Website:
http://www.neilyoung.com/
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