2014年11月20日

70年代に活躍したオランダ出身のキーボード・トリオ、“トレース(Trace)”の3アルバムが再発された!

◎プログレッシヴ・ロックの中で華麗なキーボードが存分に楽しめる作品といえば、リック・ウェイクマンの初期ソロ作とこのトレース(Trace)の3作品であろう。トレースはオランダ出身でリック・ヴァン・ダー・リンデン(Rick Van Der Linden/キーボード)、ピエール・ヴァン・ダー・リンデン(Pierre Van Der Linden/ドラムス)、ヤープ・ヴァン・エイク(Jaap Van Eik/ベース)というオランダを代表する実力メンバーによって結成されたスーパー・バンドであった。彼らはオランダのみならずヨーロッパ、全世界を代表するプログレ・バンドのひとつであり、イギリスの大御所バンドと並ぶ実力を兼ね備えていた。彼らが残した3作品が紙ジャケ、多数のボーナス・トラック収録、リマスター、SHM-CD仕様で再発された。

クラシックの世界から英国ロックの洗礼を受けたリックは60年代後半にエクセプションの前身バンドへ参加。ナイスに衝撃を受けロックとクラシックの融合を目指した。エクセプションで大成功をおさめたリックは1973年にバンドを脱退し新バンド、トレースを結成した。当初はオーゼ(Ace)というバンド名だった。リックはエクセプション(Ekseption)の発展型ともいうべきキーボードを主体としたシンフォニックかつクラシカルなロックを遺憾なく発揮できることを目指し、トリオ編成でのバンドを結成したのである。当時、オランダ最高のドラマーとされたピエールはフォーカス(Focus)で活動。ジャズからの多大な影響を受けた彼の躍動感溢れるプレイはトレースの音楽性に相応しいものだった。オランダ最高のベーシストだったヤープはキュービー・アンド・ザ・ブリザーズ(Cuby & The Blizzards)、ソリューション(Solution)などで活動していた。

1974年のデビュー作『トレースの魔術(Trace)』(※右上写真)は当時最高水準とされたフィリップス所有のスタジオで録音が行なわれ、録音の良さや音の奥行き感は見事である。ハモンド、ピアノ、ハープシコード、メロトロン、ストリング・アンサンブル、シンセなどを駆使して躍動感溢れるドラマティックなクラシカル・ロックを繰り広げている。オープニングの「ガリアード(Gaillarde)」はバッハやポーランドの舞踏曲を盛り込み、スリリングかつドラマティックに畳み掛ける。3人の実力を遺憾なく発揮したダイナミックなプレイは圧巻である。その他にも珠玉の作品が並んでいる。荒々しい躍動感といえばこのアルバムが秀でている。世界各国で賞賛されゴールド・ディスクを獲得。シンフォニック・ロックにおけるエジソン賞も受賞した。今回の再発は17曲の未発表曲を加えた2枚組仕様で、これまでの再発と重なるのは先行シングルでアルバム未収曲「プログレス(Progress)」とエクセプション時代にも演奏していたディジー・ガレスピーの「タブー(Tabu)」のみ。その他、シングル曲の「バッハ・アテル(Bach – Atel)」、多数のデモ曲や未発表曲を収録しており興味深いものとなっている。

衝撃的なデビュー作リリース後、オランダ国内の絶大なる評価を受け、彼らは国内および英国ツアーに出る。しかしツアーに疲れたピエールが脱退してしまう。カーヴド・エアとツアーしていたこともあり、後任にダリル・ウェイズ・ウルフ(Darryl Way’s Wolf)のドラマー、イアン・モズレイ(Ian Mosley)が加入する。ダリル・ウェイもゲスト参加したセカンド『鳥人王国(Birds)』(※下段写真)は75年にリリースされた。前作と比較するとドラマーの交代もありロック色を強めたが、大作「組曲:鳥人王国」(Birds Suite)」をはじめ、華麗かつテクニカルな作風は普遍で、洗練された完成度の高い作品となっている。今回の再発では10曲のボーナス曲を収録しているが、これまでの再発盤にも収録されていたシングル曲「鳥人王国」(前回収録されていたファースト・シングルをアレンジし直した「タブー」は収録されていない)、75年にスウェーデンで行なわれたライヴのラジオ音源とドイツのライヴ音源を収録している。音質も良好で全盛期のトレースの躍動感溢れるライヴ演奏を楽しむことができる。

今度はヤープとイアンが脱退してしまう。キーボード・トリオとしてやり尽くしたと感じていたリックは音楽的方向性を変更する。分裂状態だったエクセプションのメンバー4人を迎えバンドを再編し、76年に『ホワイト・レディース(The White Ladies)』(※下段写真)をリリースする。セカンド・キーボディストやギター、サックス、フルートを交えたもので、これまでのエネルギッシュなヘヴィ・サウンドとは異なり、優美でクラシカルなわかりやすいシンフォニック・サウンドを目指した。オランダに伝わる寓話を基にしたコンセプト作で、女性ヴォーカルやナレーション、生のストリングスを交えてこれまで以上に緻密に構成された壮大なサウンドとなっている。今回の再発では13曲の未発表曲(作品のデモ・ヴァージョンとライヴ曲)をボーナスとして収録している。リックのソロ作という感も否めず、高い完成度を誇りながらもこれまでのスリリングな躍動感をもとめるトレース・ファンからはそっぽを向かれてしまう。時代の変化からも本作をもってトレースの活動に終止符が打たれる。その後、リックはソロ活動を精力的に続け、89年にエクセプションを再結成しライヴも行なったが、残念ながら2006年に59歳の若さで亡くなった。

独自の美学を追い続けたリック。彼のクラシック~ジャズの影響を受けたダイナミックでドラマティックなキーボードは秀逸で、他のメンバーとの卓越したミュージシャンシップと相まってトレースが残した傑作群は未だに色褪せることなく輝き続けている。後世に語り継がれるユーロ・ロックが誇る遺産である。[祖父尼 淳/SD181]

同時発売CD:『鳥人王国(Birds)』BELLE-142292~3/『ホワイト・レディース(The White Ladies)』BELLE-142294

Official Website:
http://members.home.nl/ekseption/