2015年1月13日

美しすぎて…… : “ニール・ヤング(Neil Youg)”の最新アルバム『ストーリートーン(Storytone)』!

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◎美しいアルバムである。
 というか、あまりに美しすぎて、一瞬戸惑う作品でもある。

 ニール・ヤングの昨年末に発売された新作は、10曲中7曲が92人編成のオーケストラとコーラス隊との共演曲。これらがとにかく美しい。それは例えば激しいグランジ風の〈エレクトリック・ヤング〉でもなく、メロディのよさが光るギター一本でも聞かせる〈アコギ・ヤング〉でもない、きわめて優しいメロディに乗せて、あの鼻にかかった独特の声を控えめにかつ一語一語噛み締めるように歌ういわば、〈メランコリック・ヤング〉あるいは〈エンジェル・ヤング〉の体(てい)である。
 日本盤は“デラックス・ヴァージョン”と呼ばれる2枚組で、ソロ・ヴァージョン(簡単に言えばピアノ、ギターやバンジョーによる弾き語り)集(ディスク1)と、ディスク1のオーケストラやバンドとの共演ヴァージョン(ディスク2)がセットになっている。そのため、一見弾き語り(ディスク1)が本編だと勘違いするが、海外の1枚仕様の“通常盤”は日本盤のディスク2と同じなので、つまりオーケストラ共演の方が本編となる。

 さて、それだけのオーケストラにしては、それほど入り組んだ構成の曲はない故に、絡みが空回りしているとも感じられる箇所もある。けれど『ハーヴェスト(Harvest)』時の「男は女が必要(A Man Needs A Maid)」とか「世界がある(There’s A World)」よりは全然程(ほど)がいい、というか、破綻がなく、つまりわかっていてもベクトルは美しき感動へまっしぐら──に向かっていくのだった。
 それは、そこに希望や光が満ちているからである。言い換えれば、本作がどう聴いても〈恋する男〉のアルバムとしか思えないからである。あえて言うと、もう〈それだけ〉。
 恋する──とくれば、そう、ちょっと前に話題となった女優ダリル・ハンナ(Daryl Hannah)との恋が頭をよぎる(昨年12月に離婚調停が行なわれたらしいが、どうなったんだろ?)。彼女がどのくらい関係しているのか──は推測の域を出ないが、まあそうだと思う。
〈僕らは話し合い……最後に別れる時がきた〉という離婚調停中のもう一方の当事者=前妻ペギとの別れをM1で歌い、M4では早くも〈でも新しい恋はまたすべてをもたらしてくれる〉となり、M6では〈僕はきみに僕の裸の魂を見てもらおう〉と決意し、さらに続いて、M8で〈きみを見つけられてよかった〉と臆面もなく表明する──。どうですか、これ?
 オーケストラとの共演ではなくいわゆるビッグ・バンド編成で、ブルースっぽくシカゴについて歌うM5にしろ、ハンナの出身がシカゴですからね~。同じくオーケストラじゃないM3も彼の大好きな車とドライブの歌だけど、それでも〈行くところがほしい、行くところがほしいのさ〉とくるわけで。で、ダメ押しのような終盤M9~10では〈きみの寝息をかげば体の奥からやさしい匂い〉で〈きみはまだ眠っている〉と続く……こうなるともう絵面が浮かぶでしょ……ベッドに差し込む朝の日差し。そこに横たわる彼女。聴いてるこっちが照れるくらいのアツアツぶりなのだ。

 もちろんニールの扱うテーマは身近な事象も多い。自身の恋愛や感情を吐露した曲も少なくない。しかし、これほどドストレートで、本人とものすごく距離の近い──というか本人そのもの──で埋め尽くされた彼のアルバムがかつてあっただろうか?
 とはいえ、あえてここで強調しておくが、単なる恋する男ではないのだ。69歳の男が、36年以上も連れ添った妻と離婚までしてそっちに走るくらい好きになってしまったのだ。そりゃ、ハンパな出し方では収まらない。
 恋をすると人はこうまで優しくなれるものか。優しさだけじゃない。こうまで世界を美しく描き、麗しく表現できるものなのか。おだやかな春の日差しの中に輝ける植物の萌芽を見たような──そういう映像が浮かぶ音ばかり。オーケストラのなめらかな調べにニールのものすごく優しすぎるくらいのヴォーカルがからんで、上記のように、そうたいしたことは歌ってない(笑)とわかっていても、クセになる耳心地のよさなのだ。それはもう異常なくらいである。

 となれば、全部がオーケストラと共演でいいじゃないか、とも思う。僕自身はオーケストラとの7曲のみでよかったと思っている。しかし、なぜか全曲オーケストラとの共演、ということにはなっていない。

 なぜこんなことを書くのかということをわかってもらうために、横道にそれつつちょっと説明しておくと。
 このアルバムの収録曲は、二つの分け方ができる。

A.〈恋愛〉と〈それ以外〉
B.〈オーケストラ共演〉と〈そうじゃない〉

 前者はテーマで、後者はアレンジだ。
 で、これがそのまま〈恋愛×オーケストラ〉と〈恋愛以外×オーケストラじゃない〉にきれいに分かれていれば苦労はしないのだが、どっこいそうじゃないのだ。例えば、〈誰が地球を救うために立ち上がるのか?〉という恋愛と直接関係ないM2がオーケストラとの共演で(そもそもこの曲がこういう形で最初に発表されたので、僕自身は本作はこういう曲が並ぶのだと思っていた)、先にも触れたM3とM5も〈オーケストラで恋愛〉とは異なる。
 さらにジャケットは、先行して発売された自伝第二弾『Special Deluxe : A Memoir Of Life & Cars』(※下段写真)という、ニールが自分の好きな車と絡ませながら自らの人生を語る、というもの──のカヴァーの写真と同様なコンセプトのイラストだし。つまりいろんな要素がちらちらするせいで、すっと一本通ってるようには見えないのだ。
 なんでこんなことになっているのか。
 ──というわけで、友人と話していて〈どうしてちゃんと統一しなかったかなー〉と盛り上がるのだが、〈単なる気まぐれ〉〈トータル・イメージをまとめられないままだけど、離婚調停までには出したかった〉〈本来アコギのアルバムのつもりだったが、前作と前々作がそうだったので、やめて、新アレンジを採用し、オーケストラの曲が多くなってしまっただけ〉……などなどいろいろ浮かぶけれど、あえてミスリードを誘うことで本質(=ハンナにメロメロな俺)を隠蔽した──とも考えられて、しかしそこまで行ったらきりがない。どれもが真実とも思えるし、どれもがズレてる気もする。ただ、やっぱりこれまでの〈気分屋だけどある種の統一感は残す〉彼のイメージとはどこか違う。『ハーヴェスト』だってバラバラだったけど、それはヴァラエティと呼べる範囲のものであって、本作の〈かなりまとまってるのにまとまりきれてない〉のとは異なるのだ。

 だとすると、ここは素直に見たまんまを受け入れるしかないのだろう。
 すなわち、(彼にとって)こういう形がよかった──ということである。
 こういう形とは何か。テーマも微妙に一つでもない。アレンジもワンパターンじゃない……これが、今のニール、ということである。
 環境問題を憂れいて地球を誰が救うために立ち上がるんだと歌うのも、車をぶっ飛ばすのが好きなのも、そして新しい〈キミを見つけてよかった〉と言える恋人の出現でこんな曲ばかりが多くなるのも、これぞニール──今の俺なんだから、と。そういうことではなかろうか(あまりにあんまりな結論で申し訳ない)。下世話に見ると、ハンナに対しての〈こんな俺です〉なのかもしれない。すなわち、あれもニール、これもニール……あれもこれも俺、と69歳の男の今のいろいろをとりとめなくさらけ出した──逆に言えば、ハンナという存在がさらけ出していい相手なのだということになるが──作品なのかもしれない。

 で、ようやくこの文章も終わりに近づく(お待たせ? しました)。

 タイトルに〈美しすぎて……〉と書いた。
 そうなのだ。このアルバムは美しい。そして耳心地はものすごくよすぎるくらいいい。
 が、その恋する男としての重みや激情や叫びはあまりなく、こちらまで引き込まれて熱くなったり心を揺さぶられるほどのものにはなっていない(だから、冷静に感動できるのだ)。
 しかし、それはかつてのニールの作品とは決定的に違うのである。彼の曲なら、同じ恋愛でも、自身がこんがりながら書かれ、歌われたものは、聴くものの心をつかんで離さなかった。一緒に燃え、一緒に泣いた。
 一方、本作は耳心地のよさで聴き通せてしまうのだ、淡々と。
 なぜか。特定の個人のためのものだからである。ハンナと自分のためのアルバムだからである。
 すなわち、本作は、テーマが世界であれ自身の心情であれ、いつものように他者を想定した表現としてぎりぎりの高みまで昇華されている感じがしない。そしてそこにいるのは、表現よりもまとまりよりもなによりも〈彼女が大事!〉な一人の男がいるのみ、なのである。
 だからといって、僕は彼や本作をおとしめるつもりはない。こんな美しすぎるアルバムはそうそうに作れるもんじゃないから。それに、そうと理解すればそういう作品の楽しみ方もちゃんとあるし。実際、本作は僕にとってのものすごい愛聴盤だし(名作より、傑作よりも、僕の中では“愛聴盤”の方が順位が高い)。
 逆に、69歳で、すべてを投げ打ってここまで没頭耽溺できる相手がいる人生をうらやましいと思う。という意味では、高齢化社会に生きる男たちに希望を与える福音的な作品とも言えるのかもしれない。
[米田郷之]

Book:『Special Deluxe: A Memoir of Life & Cars』 Neil Young・著(2014年)

Neil Young – Plastic Flowers

Official Website:
http://neilyoung.warnerreprise.com/
Official facebook:
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